Report 6

 
「渋さ知らズのアート知らズ / 渋さ知らズ」
2011/11/13
text by 高橋聡太
photo by 蓮沼昌宏
 

不破大輔を中心とする不定形の巨大音楽集団、渋さ知らズ。自在に形を変えてあらゆる時と場所を飲みこんできた彼らが、松戸駅からほど近いビルの一階にある空きテナントに出現した。もともと全国規模のアパレル・チェーン店が入っていたというコンクリート打ちっぱなしの広い空間は、通りに面した部分がガラス張りとなっている。会場そのものは無機質で素っ気ない作りだったが、ライヴ当日は100人近くもの観客によって賑わい、ケータリングの飲み物やフードを楽しみながら、あたたかい雰囲気で渋さの登場を待っていた。

 
 
総勢25名前後のメンバーたちが列をなして会場に入ってくると、しなやかなピアノのメロディに導かれて渋さ知らズの一大セッションが静かに幕を開ける。ツインドラムと多彩なパーカッションがつくる分厚いビートと、ホーン・セクションが奏でる勇壮なフレーズの反復を軸とし、演奏は徐々に熱を帯びていく。

 
 
バナナのぬいぐるみを手にした女性ダンサーや、続々と現れる白塗の舞踏家たちのパフォーマンスも一際目を引いていたが、やはり最も印象的だったのは不破大輔の姿だ。恍惚とした表情をうかべ全身でバンドに指示を出す様子には只ならぬ凄味があり、さながら音を憑依させたシャーマンのようである。かと思えば、演奏の最中にふらっといなくなってはビールを片手に戻ってきたりもする。演奏者と観客のあいだを文字通り行き来しつつ、会場全体が鳴らす音楽を楽しんでいた。

 
 
たくさんのパフォーマーでごった返すステージに呼応するかのように、オーディエンスも次第に思い思いの反応を見せる。前方で拳を上げて熱いリアクションを返す筋金入りの渋さファン、ゆっくりと手拍子を打ちながら演奏を楽しむ年配の女性、大音量をものともせずぐっすり寝入る女の子。整然と並べられたパイプいすによって作られていた開演直後の平衡が、渋さが生み出す音の渦に巻き込まれた観客たちに崩されていく様子は、実に痛快だった。

 
 
開演時と同様に列をなして会場を練り歩く演奏者たちを囲んで、ライヴは大団円を迎える。この頃には会場中が総立ちとなって体をゆらしあい、場外にまで祝祭感をあふれさせていた。あまりの熱気に内と外を区切るガラスが真っ白にくもっていたため、きっと通りがかった人々は驚いたに違いない。禁煙を強いる環境に悪態をつきながらもアンコールに応えた不破の「つらい顔してたらやられるだけだ。だから笑っていくしかないんだ」という言葉とともに、この日の興奮は訪れた人々の胸中に強く焼き付けられた。

 

 
執筆者

高橋聡太(たかはし・そうた)
文化批評。OOPS!、ArtScape、月刊TVガイドなどに寄稿。
東京芸術大学音楽学部大学院修士課程在籍。
twitter: @sotahb

 
 

「民藝としてのラップ / OJA a.k.a. son of GEN feat.田嶋奈保子」
2011/11/19
text by necojitan
photo by KJ

 
11月19日に行なわれたパフォーマンスの模様をお伝えします。会場はMAD City Gallery、参加アーティストは松戸が生んだ奇跡のコラボレーション、OJA a.k.a. son of GEN feat.田嶋奈保子!何かが起きる予感がします。

 

今やすっかりお馴染みとなった、OJAさんによるライブ前トーク。毎回集めているオーディエンスからのコメントカードを手に、松戸やラップへの想いを熱く語ります。

 
 
ライブペイントを行なう田嶋さんも紹介され、いよいよパフォーマンスがスタート!

 
 
OJAさんは今日も絶好調!

 
 
田嶋さんは繰り出されるラップの詞を聴きながらイメージした絵を描いていきます。

 
 
終盤に描き始めたのは、手をつなぐたくさんの人たち。

 
 
完成の瞬間です!田嶋さん、会心の笑顔。

 
当日は雨の降る中、多くの方々の来場があったこのイベント。OJAさんも田嶋さんも実は松戸近辺で活動しているということで、今後も一緒にコラボ企画などが生まれそうです。こういった出会いをキッカケに、こうした展開が生まれるのもアートラインプロジェクトの醍醐味かもしれません。

 

 
執筆者

necojitan
1985年生まれ。松戸市在住。普段は店舗ディスプレイ案作成、内装施工などの空間演出デザインを手掛けています。

 
 

「couch(浅尾怜子・宮崎大樹)インタビュー」
2011/11/23
interviewer / text by 吉野元春
photo by KJ
 

 

ー couch(浅尾怜子・宮崎大樹)インタビュー

インタビュアー(以下、「I」):坂川での展示を拝見しました。角を折れて川に沿って歩くと、しばらく作品が見えず、あの辺りにあるだろうと見当をつけながら行くと、ぱっと青い川面が突然に現れる。新鮮な体験でした。今回のように屋外の環境を利用して作品を作るというのは、初めての試みですか。

宮崎:couch というユニットの作品として具体的に形になったのはこれが初めてです。私たちはそれぞれ一人で作品の制作をしてきたんです。それが次第にお互いの制作を手伝うことが多くなって、二人でやってしまえということで couch を作りました。

I:今回の作品は、坂川の一部をライトアップして青く染めてしまおうというものですが、この作品を制作するそもそもの思いや考えを伺ってもよろしいですか。

浅尾:地図上の川と実際の川との関係性を考えると、地図上の川は線によって表されていますが、その線は実際の川を緻密にトレースしたものではありません。実際の世界を写しとったものでも、地図にした時点で、現実の世界と異なる世界になる。地図とは、地図の製作者がある基準に則って作った記号でしかない。それを実物にトレースしてみたら面白いな、と。

宮崎:人は日常的にそういうものを生み出して、それらに囲まれて生きています。それが余りに当たり前で、本来は地図上の世界というのは異質な世界のはずなのに、それが知覚されないくらいふつうのことになっている。見過ごされている物事へ作品によって光を当て、その場に居合わせた人の知覚を開く。それはアート作品の役割の一つだと思います。

I:松戸で制作するにあたって坂川を選んだのはどういった理由からなのでしょう。

宮崎:坂川のサイズが手頃だったんです。あの作品を見て、本当に地図の坂川だな、と思う人はあまり多くない。地図上の坂川が、そのままそこにあるとは、なかなか見えない。「川が青くなっていてきれいだけど、よく意味が分からないな」と。そこで終わってしまう方が大半だと思うんですけど、一歩踏み込んで、これはどういうつもりでこうなったんだろうと考える。そういう感覚を持った人に、コンセプトを理解してもらって、「ああなるほどな」と。どこまでそういうふうに踏み込んでもらえるかな、という感じですね。

言葉について考えてみれば、意思の疎通だとか考えを深めるために「川」や「山」というふうに、一言で言い表す。物事の本質を上手くつかみとるために、記号にするわけです。それは美しいことでもあるし、他愛ないことでもある、その美しさと他愛のなさを、作品にしてみたいな、と。そういうことが根本にはあります。

 

I:この作品はMapping Project の最初の作品として制作されています。この作品から始まって、これがどのように展開していくのでしょう。どうしても、スケールを大きくしたり、広げていくという方向に想像が働いてしまうのですが。

宮崎:スケールを大きくするにあたっては、小さいスケールで採用していた方法をそのまま拡張することは出来ないので、その大きさに合わせて方法の質が変化して行きます。例えば今回の展示では、川が長い距離になるだけで、川面の上に張ったスクリーンに青い光を投影するという今回の方法は使えなくなる。巨大なスケールになれば、地図を俯瞰して見せるギミックを用意するとか、規模によって異なる方法を用意しなければならない。

浅尾:それから、沢山の人に手伝ってもらったり、人を募ったりということはあまり考えていなくて。自分たちの出来る範囲でやろうということは根本にあるんです。

宮崎:僕らは二人ですが、その二人で大きなスケールを扱うというところにもギミックの面白さということがあります。色々な工夫を用いて、少ない人間で大きなスケールを扱いたい。世の中の物事は様々な雑多なことの積み重ねで出来ていて、僕たちがものを考える時には、本質的なことをいくつか抜き取って考えるということをやります。それを形而下の世界でやってみたい。つかむ所をつかめば、大きいスケールを少ない人数でも出来る。二人というミニマムな単位でいかに大きいスケールを扱えるか、というところの工夫と労力の積み重ねで、どうも面白いことが出来そうだ、と思っています。

I:今後の展開にも大きな期待をしています。本日はどうもありがとうございました。

 
 

 
執筆者

吉野元春
横浜市戸塚区在住。かつてトゥール・ポワティエ間の戦いが起こった10月10日に生を享ける。尊敬する人物は吉本隆明と古井由吉。

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