Report 1

「オープニングトーク」
2011/11/05
text by 吉野元春
photo by 冨田了平

 
オープニングレセプションは松戸市長の挨拶からはじまり、懇親会も遅くまで参加者が残って話し込むなど、大変盛り上がりました。そのなかでも内容の濃かった、アートディレクターの毛利嘉孝氏と、4人の参加アーティストによるオープニングトークをレポートします。

左から、毛利さん、山下さん、大成さん、中島さん、毛原さん

 

毛利:前回の松戸アートラインプロジェクトに関わった際に感じたのが、松戸の「人」の面白さです。それで今回は「人」に焦点を当てることにして、特にアーティストと町の人との関係に着目しました。柏や取手を始めとして、今やアートのイベントは様々なところで行われています。どこもいい企画がありますが、見様によっては似たような作家がいたり、いわゆる現代美術の展覧会が中心になっているなかで、松戸アートラインは他の街おこし的なアートプロジェクトと少し違う見せ方をしたかったんです。

それもあって、今回のテーマを「暮らしの芸術」としました。ですが、いきなり「暮らしの芸術」と言っても伝わらない。「暮らしの芸術家とは誰か」ということをまず提示するために、ここに来て頂いているアーティストを選びました。大成さん、毛原さん、中島さんは去年に引き続いての参加です。これは「定着する」という要素も大切にしたかったためです。

それから、次に公募をしました。多くの作家が、普段から場所を探している、けれど見つからない。美術館でやるにも制約がある。行政が関わらなければできないことも多い。今回会場として実現した、トンネルや川のような場所は、なかなか使えないわけです。松戸アートライン以外の機会ではできないようなことをやりたいと思っている人が来て、その思いを実現する。今回、そういうイベントになったと感じています。

松戸アートラインの全体については以上です。ではこれから、ここにいるアーティスト一人ひとりにお話を伺います。まず山下陽光さんです。山下さんの会場はこの鈴木ビルです。ここで0円ショップというのをやっていて、そこに幾つか服などもありますが、100円ショップは生ぬるいから……

 

山下:全部タダがいいんじゃないか、と。

毛利:そういうすごい企画です。その辺りの、どういうことを今やっているのかということをお話頂ければと思います。

山下:簡単に言えば、世の中景気悪いとか、政治が悪いとか東電が悪いとか、色々誰かのせいにするのに飽きちゃったんです。あれこれ文句を言うんだけど、じゃあお前どうなんだっていう時に、実はこんなふうに文句言ってるだけな自分のせいで景気が悪いんじゃないか、って思ったんです。

偉そうに言っても、自分は大したこと出来ない。じゃあ出来ること何かなって思って、やってみたのが0円ショップです。もともと僕は古着屋で、捨てんのもったいないって取ってある洋服をもらって売るという、いちばん姑息な商売をやってたんですが、もう売るんじゃなくてあげちゃえばいいんじゃないか、と。

それで、素人の乱シランプリっていう自分の店で去年に0円ショップをやったんです。ハイパー金持ちが絶対に一人は来てパトロンになってくれると目論んで。ところが誰も来やしない。でも、客と店っていう関係も崩したいし、もらっていく人がありがとうっていう感じも気持ちいい。お互いフラットになれて良いなと。洋服だと趣味が千差万別なんで、陶器も加えて今回やったんです。評判が良かったのかもう少なくなったので、要らない服や陶器をお持ち頂ければ。

さらにここからが重要で、なぜ千葉県の松戸で今回これをやるか。1960年代ぐらいに盛り上がった「地の塩の箱運動」というとんでもない運動が同じく千葉県の前原駅っていうところを中心にしていて、60年代で周辺に最大750カ所、その箱が置かれた。お金のある人はお金を入れて、お金が無い人はここから持って行っていいですよ、という箱なんです。カギのかからない貯金箱みたいなもので、つまりお金を使った0円ショップです。募金だと不透明なところもありますが、これってすごく透明ですよね。

これで、ちょっと僕は日本人のプライドをくすぐりたいんです。景気が悪くてもお金をもらうより上げたいはずだから、出来れば入れてもらって、誰でも取っていい。これがみんなの財布なんです。ちょっと困ったときに助け合える仕組みになる。

こうやって喋って初めて、「あ、お前そういうことやりたかったんだ」っていう感じだと思うんですよ。看板からは理解できないくらい熱い思いが実はあったんですよ、という、山下でした。

毛利:山下さんはこういうふうに喋って凄くおもしろい人なので、ぜひ話してみて下さい。

では大成さんお願いします。大成さんは学生と一緒に「百鬼夜行」ということをやっていて、会場は別のところです。

 

大成:会場は松屋2Fという、明治から続いている松屋というお茶と陶器のお店の二階です。展示の内容は会場と深く関係するので、場所が決まらないとプランがなかなか決定しないのですが、倉庫として使われていた松屋の2階に古い物と新しい物が混然として溢れんばかりになっているのを見て、「百鬼夜行」に決めました。

「百鬼夜行絵巻」は室町時代に土佐光信が描いたと言われる妖怪の絵巻物です。使われず放置された物が妖怪になるんです。からかさ小僧とかですね。それは現代にもあるのでは、と。現代は物がどんどん改良されて入れ替わる。忘れ去られて手元から離れていっても、物は残ります。それは百鬼夜行と似ているんじゃないか。松屋の2階にたくさんある物を使って作った妖怪を並べて、百鬼夜行をやっています。(プロジェクタの画像を指しながら)

これは今日のワークショップで作ったものです。松屋の物だけでなく秋葉原で買って来たジャンクフィギュアの腕をもいだり組み合わせたり、目をつけたりというようなことに、いろんな人が結構はまってくれたんですね。他のものどうしをくっつけて別の怪獣を作ってみるとか、ちょっとリカちゃんのスカートをめくってみたいとか、子供の頃にみんなやっていたのと同じ感じがここにある。最初の、百鬼夜行がどうのというより、この行為自体が面白くなってきて、このワークショップを皆さん体験して欲しいと思います。

毛利:ありがとうございます。今日は聖徳大学の学生さんたちも来てくださっていますね。

では次に中島佑太さんです。中島さんはこの鈴木ビルの2階を本拠にしながら、とはいえ街なかでプロジェクトをやっている最中で、ちょっとその話をして頂ければと思います。

 

中島:僕は、懐中電灯を使って松戸の人と関わっていくという作品を発表しています。プラネタリウム式懐中電灯と呼んでいるんですが、僕が展示しているのはこの懐中電灯です。懐中電灯のランプ部分をいじって、星が投影されるようにしています。これと、地元の人の家の懐中電灯を交換する。町の人の懐中電灯を改造して、この展示会場に星空を映し出しつつ、一方の町の人の家でも、僕が交換した懐中電灯を使うと星空が浮かび上がる。こうやって二つの星空を交換するというロマンチックなプロジェクトです。これは「暮らし」というところから懐中電灯を選択したわけです。それが一つめの内容です。

二つ目は町の人と、この懐中電灯を使ってもっと深くコミュニケーションできないかなと考えて、ナイトミステリーツアーということをやっています。その都度みんなで話しながら、暗い所を目指して行く。ここから少しでも松戸のことを知って、新しい展開を作りたいと思っています。今回の取り組みには、アートラインの会期だけでなく、松戸の町に残ることは何かと考えたことが反映されています。交換した懐中電灯は街の人の家に残りますよね。

それで、結果的には展覧会の会期をはみ出すことにもなっていて……ツアーや懐中電灯の交換や会話によって、人との関係ができて、一度知り合ったら簡単には忘れられないものですよね。アーティストがアートラインの会期だけ町に来るというのでなくて、展覧会が終わってからも出来ることを考えたいんです。それをアーティストから提案するだけではなくて、アイディアを寄せてもらえるような関係作りをして行くための一つの切っ掛けとして、星や懐中電灯を提案しているんです。

もう一つ大事な「19時から21時のHobby Scramble」というタイトル。これは僕の仮説なんですが、ベッドタウンである松戸の人たちが、17時か18時に退社して、松戸に着くのが19時から21時くらい。展覧会を休日に見に来る人って余所の人が多いですよね。もうちょっと本当にこの松戸に住んでいる人と喋るにはどうすればいいんだろうと考えて、平日の19時から21時、計3回のツアーを企画しました。ナイトツアーを通して、その作品を見てもらいつつ、新しいアイディアを生み出せるような関係作りができればと思っています。

毛利:会期は土日の11時から18時なのに、平日の19時からやるというのは中島さんらしいなと思います。逆にその時間だからこそ参加できる人というのも沢山いるでしょうね。

では最後に、毛原さんに伺いたいと思います。

 

 
毛原:皆さんこんばんは。毛原大樹と申します。僕は「最後のテレビ」という企画をやっています。今年の7月24日に地上波のテレビがアナログ放送からデジタル放送に完全移行して、アナログの帯域が空いた。特に58年間NHKのものだった1チャンネルの電波を7月24日から飛ばし続けるということをやっていました。

今回の展示はテレビ局と言っても皆さんがイメージするテレビ局とは全く違うものです。カメラも無ければ普通のマイクも無くて、ファミリーコンピューターが一台だけ。それでも周りのテレビは室内用アンテナで受信した1チャンネルの映像を映し出している。僕は送信用のアンテナを自作してファミコンにつないだだけなんです。これで1チャンネルに画像を飛ばすことが出来て、ゲームもプレイ出来る。今はスーパーマリオです。

加えて、ファミコンの2コンについている、発売当時から謎の仕様だったマイクを使って、1チャンネルで音声も飛ばせる。そのマイクに話しかけるとテレビから自分の声が出ます。

僕は今までずっとラジオでミニFMをやっていたんです。しかし今回は、誰の家にもあるファミコン一台が、ちょっと手を加えるだけでテレビ局になることに気が付きましたよ、みんな見てくださいという展示です。これ、誰も気付かず、やってこなかっただけなんですよね。

この1チャンネルの使い方を今も色々と実験しているので、これ以外の送信方法も期間中に追加してお見せして行きます。たぶん皆さん見たことないような。受信用のテレビも面白いものをいくつも持っているので、順番に紹介していきます。

毛利:面白いなと思うのが、テレビ局を作るという大仰な感じに反してずいぶん簡単に出来ている。電波法があるので、そんなに広く飛ばせないけれども、法律の範囲の中で微弱な電波は飛ばせるというのが、すごく実験的だと思うんです。あと、人が集まりやすい。

毛原:そうですね、何しろファミコンですから。僕が席を離しても音が聞えて来て、誰かやってんだな、とか。さらに2コンのマイクで、ゲームをやりながら「くそっ」とか言っているのが全部聞えちゃってる。そういう状況も生まれつつあります。

毛利:作品について、それぞれの考えや思いがあるということが伝わったと思います。ここで次に松戸の印象を伺います。山下さんはどうですか。

 

山下:今回展示している鈴木ビルというこの場所は、多分松戸の超一等地ですよね。僕の店があった高円寺の北仲通商店街というところは人通りが少なくて、何かやってるとよく訊かれるんです、「今度なんかやるの?」みたいなことを、知り合いじゃなくても。でも、ここで服を並べたり陶器を並べたりしていても、ほとんど訊かれなかったんです。なんというか……「嘘東京」なんですね、ここは。他人に係るのはやめようっていう感じなんです。僕がやってた高円寺の店の「うちの要らない食器、山ほど持って来るわよ」みたいにはならない。街の中心を外れるとまた違うだろうなと思うんですけれど。

でも、歩いてみると松戸ってすごく変なんですよ。マンションの4階くらいに「岩盤浴」って書いてあって、絶対嘘だろうと。別の建物で、4階に「レンタルルーム2時間3000円」って書いてあって、その横に「手打ちそば3000円」「手紙書くの1回1500円」って、何屋かとびっくりして。松戸の高層階はすごいんじゃないかなと思いますね。

毛利:混在している町であるのは事実ですね、松戸は戦後のかなり早い時期に発展したから。それに、ついこの間まで本当に服を売っていた店で0円ショップというのも凄い話だな、と思います。松戸といえば、大成さんなんかずっと通っているから。

大成:もう7年通っています。職場の聖徳大学は東口の方にあるので、西口方面って実は余り来ないんです。でも今回やってみて、面白い人が多いな、と感じています。松屋の店主の伊藤さんとか自治会の人たちがパワフルで。彼らは松戸に誇りを持っているんじゃないかな。伊藤さんも既に四代目の店主ということですし、去年やった原田米店だとか、明治や江戸時代くらいから代々残っているものを守っている人たちがいる。そういう感じが最近見えてきました。

毛利:中島さんはね、去年に図書館をやって、そこでまたいろんな人と会っているし、その関係のなかから見えるものがあると思うんですけれども。

中島:僕は松戸の人って忙しそうだなと思うんです。去年のアートラインでは要らない本を集めて図書館をやって、けっこう常連の子どもも来てくれたんですが、塾へ行く時の友だちとの待ち合わせ場所にして、ついでに借りて行くという子もいたんです。子どもまでそんな分刻みのスケジュールで動いているのを見て、僕は本当に田舎者なので、やっぱり都会は違うなあと思っていました。

でも、その裏側に歴史と言うか古い町並みが残っている、その距離感が不思議だなと。これだけ東京から近くて、駅前の新しいエリアと古い町並みが両方ある。ナイトツアーで暗いところを目指して歩いていると、古い街並みや川に行き着くんです。

後は江戸川の矢切の渡しとか、魚河岸があったりとか。水運と宿場で成り立っていた町だろうと思うんです。その当時はやっぱり河沿いが賑わっていた。江戸もそうですが、河沿いの賑わいって失われてしまう。それが不思議だなあと今年新しく感じました。

毛利:では毛原さんどうですか。去年は地元のおばちゃんと、レコードを一緒に。

毛原:松戸の団地に住んでいる方です。SPレコードというものの収集家の方が、僕がやっているラジオでそれをかけて欲しいと、貴重なコレクションを持って来て下さったんです。おっしゃるとおり去年のことですね。去年もテレビ局を展示していたんですが、特番を急遽組みまして、三時間くらいやった。それが伝説的な録音になっていて。非常に面白いですね、そういうことが偶然に起こったというのが。その方には連絡を取って今年もやりたいなと思っていますし、今年もそういう出会いに期待したいです。

松戸の印象としては、去年の会場だったガレージの持ち主がバイクを好きで、サイドカーを持っていらっしゃるんですよ。来た人をそのサイドカーに乗せて松戸の街を走るんです。それがもうスリリングでした。サイドカーから見た風景、低い視点から見た松戸がとても印象的で。そう言っちゃうと他の街でも同じか、とか思ったりするんですけど、でもやっぱりそのサイドカーがあって松戸がある、そういう感じですね。

毛利:ありがとうございます。

では皆さんから最後に宣伝などあれば。

山下:ぜひ着なくなった服と陶器をお持ち頂ければ。開催日の間はずっとやってますので。それから要らないお金。お金がない人はもって行く。服と食器をもらって金までもらって帰るというのがいちばん凄いですね。自分が要らないもので誰かが喜んでくれるので、余り考えずどんどん持って来て下さい。物が増えることがこの辺のコミュニケーション濃度を示すと思うんで、無くなっていって集まんないのも、しょうがないのかなと思います。

毛利:それはそれでそういう町なのかもしれない(笑)0円ショップを起点にコミュニティが出来てくれば面白いですね。それに、この鈴木ビルの1階は、半分くらいの広さをおしゃべり出来る様な場所にするんですよね。

山下:作ります。みんなの家、みたいになるのかな。

毛利:大成さんはどうですか。

大成:今回のワークショップは子ども百鬼夜行と言っていますが、大人の方でも歓迎します。今日は4歳の子から70歳の方までやっていました。大学生がサポートしますので、気軽にどんな年代の方でも来て欲しいと思います。

毛利:中島さんはありますか。

中島:15日の19時、伊勢丹前に集合して、ナイトツアーをやります。懐中電灯がない方は2階から持って行ってもいいですし、交換も承っています。僕の懐中電灯を使う際は、ご自分で電池を持参して下されば助かります(笑)。それから、事務局と松戸市の方々が許してくだされば、今後松戸で長期的なプロジェクトをやりたいなと考えております。壮大でロマンチックなプロジェクトを一緒に立ち上げたいという方は声をかけてください。

毛利:では毛原さん。

毛原:僕がいる時にいつでも声をかけて頂ければ、テレビ局の作り方とかお教えします。何でも質問してください。

毛利:ありがとうございます。これでいったんトークイベントを終りにします。今日は本当にありがとうございました。

 

トーク終了後に行われた懇親会の様子

 

 
吉野元春
横浜市戸塚区在住。かつてトゥール・ポワティエ間の戦いが起こった10月10日に生を享ける。尊敬する人物は吉本隆明と古井由吉。

 
 

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